ニューヨークのヴァイオリン職人

何よりも訳文が見事である。原著を読んではいないが、この翻訳はほめられるべきであろう。翻訳者の力量はきわめて高く、秀逸である。

最初は、複数の職人群が書かれているのかと思っていたが、そうではなくて、トランペット奏者でもあるアメリカ人のジャーナリストが、ある葬儀に演奏を頼まれて参列した時に聞いた、少年のヴァイオリンの音色に感動して、物語が始まる。

一人の卓越したヴァイオリン職人、サム・ジグムントーヴィッチが、ヴァイオリストであるユージン・ドラッカーから注文を受けて、彼が持つストラディヴァリウスにかわるコピーヴァイオリン制作を始めるときから、納入するまでの記録、一種のドキュメンタリーである。

職人は一般に口数が少ないのが常であるが、サム・ジグムントーヴィッチはヴァイオリンを知らないユージン・ドラッカーにいろいろと教える。この台詞がなかなか哲学的である。

よく言われた「ニス」の秘密よりも、使った木材がストラディヴァリウスの音色に寄与していると定説が変わってきたが、現存するストラディヴァリウスが製作された時のままであるとは言えない事もよく理解できる。何度も修理され、手が入れられているためである。「にかわ」は最高の接着剤である。

クレモナは一度訪れた事があるが、ポー川の夕暮れを今でも記憶している。

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